帰郷

実家から、できれば三連休などのタイミングで帰ってきてほしいとの連絡があったのが先月末。すぐに飛行機の予約を取って、今度は忘れないように振込もその場で完了した。最後に何を言うべきなのか、何を言いたいのかわからなくて。10年以上、頭の片隅で考え続けていたこと。仕事をして、終わったら本を読みつつ考える、そんな日々が2週間ほど続いた。答えらしい答えは見つけられなかった。

珍しく彼から連絡をもらったのが先週の金曜日。折角だからあちらの予定を尋ねてみようかと思いながらも、通話中には切り出せないまま。土曜日に起きてから連絡するかどうか迷って、結局行動に移すことにした。迷惑かもしれないとは思いつつ、会いたいと伝えておかないと後悔しそうで。夕方から予定があるとの返事。前に言われたことを思い出してマイナスな方向に思考が振れる。でももう一度やり取りを読んでみると、自分が投げた質問に素直に回答してくれているだけのような気がして、再度連絡を送ってみる。あっさり了承の返事が来て、何だか変な気持ちになった。

金曜日。荷物を詰めながらLINEを確認していたら、連絡が入っていることに気が付いた。どうやら当初の目的は達成できないらしい。3年ほど前のことを思い出して、そんなに都合のいいことあるわけがないよなと冷や水を浴びせられたような気分になって、また荷物を詰める作業に戻った。行きしなの飛行機に乗っている最中、近頃読んだ本の一節が頭を過ぎって何となしに外を眺めてみたものの、座席の配置上窓から見えたのは翼だけだった。

土曜日。「ぼーっと考えごとができる場所」とリクエストして連れて行ってもらった大文字。登山道の入口まで歩いた時点で既に筋肉痛の気配を感じており、日頃の運動不足を呪った。でも、登りも下りもペースを合わせてもらったから何とかなった。風の心地よいある程度高い場所まで登って、陽光にあたりながら座っていると1週間前と同じ質問をされる。答えてから、これだと別の解釈もできると気付き、いくらか情報を付け加えた。あとは一方的に渡したかったものを渡して、すんなりと受け取ってもらえたことを少し不思議に思ったり。(でも嬉しかった。)他にはよもぎ大福を食べたり、彼を待ちながら山のさざめきを聴いたり、琥珀糖をいただいたり、他愛もないことを話したり、道を教えてもらったり。

日曜日。家族とゆったり過ごした。年末年始は毎日外出していたけれど、こういうのも好き。弟と一緒に『7 Days to End with You』を遊びながら考えごと。異なる言語を用いる女性の発言を状況から推測して、解読していくゲーム。結構普段から人と話すときの感覚に近くて。無限に振り返ることができて、解かれることを前提に作られているこのゲームですら中々の難易度だから、いくら同じ言語でも他人の考えていることなんてわかるわけないよなと自嘲気味に思ったり。そんなことを考えていると、ひたすらゲームに誘ってきたり、帰り支度をさりげなく妨害してみたり、次の帰省の時期を尋ねてくる末っ子の行動に思い当たり笑ってしまう。ふと私もこのくらい正直であれたらと思い、すぐさまその思考を打ち消した。

帰りの飛行機は当初の予定から1本遅らせ、翼から離れた窓側の席を指定した。離陸からしばらくして、街の光がふわりと雲に覆われて見えなくなった瞬間に実感がわいてきた。お別れ、結局言えなかったんだよな。会う以外の手段はないのに、会えなかった。仕方のないことではあるけれど。次に飛行機に乗るときは昔のことに加えて、今日のことも思い出すのかもしれない。