本棚 その2

新年が始まってから早くも1か月が経過したらしい。光陰矢の如し。ここ最近仕事(と諸々)が忙しく、中々ゆったりとした時間を作れていない。それでも読書はちまちま行っているので、また今年に入ってから読んだ作品を書き留めておく。本当はあと3冊ほど読むつもりだったんだけれどな。



『草の花』(福永武彦
池澤夏樹より先にこちらを読む日が来るとは。中々内容が難しくてこれから何度か読み返すことになりそう。死を待つ間に回想した過去を残された人間が見る。噛み合わないこともあるんだな、と思う。この作品は作者の体験に基づいたものらしい。汐見の愛は理想を投影している部分があったが、自分にも人に理想を見てしまう部分はあって(厳密に言うと異なる)、ちょっと釘を刺されたような気分。自他の境界が曖昧なの(正確には「非常に他を意識しづらい」のでむしろ逆)、生来の性質ではあるものの、あまりよろしくない。何事もほどほどにしたいんだけれどな。


『南方郵便機』(サン=テグジュペリ
テグジュペリは人生の羅針盤と言いつつも、実は『夜間飛行』が好きすぎて、同じ本に収録されているこちらは読んだことがなかった。恋愛絡みの話も取り上げられていて、他の読了済みの著作と少し毛色が異なるように思ったが、そういった意味だとむしろテーマが絞られすぎている『夜間飛行』が例外なのかもしれない。あちらは同じ色を何度も塗り重ねて描かれた絵、こちらは様々な淡い色を使って描かれた絵みたいな。どちらも好き。簡単にはわからないけれど、何度も読んでみたい。


『本と鍵の季節』(米澤穂信
彼におすすめされた本。これは『ボトルネック』を読んだときにも思ったことで、この人の作品はミステリーなのにさりげないから私でも楽しめるのかもしれない。突飛な設定があっても、地名・書名・人名等に現実的な要素が散りばめられていて、バランスが取られているというか。なんというか、ちゃんと重力がある感じ? あと、余計な感情がない淡白な会話がベースで気楽(何も読み取れていない可能性はある)。ギミックの他にも楽しめる要素があるし、形は綺麗にまとまっていて、安心して読めるミステリーというイメージ。器用。めちゃくちゃはまるタイプの作家さんではないけれど、普通に好き。
今回は最初の話のギミックをタイトルである程度察してしまったから、ギミック意外の部分にわりと目がいってしまった。まっさらな方がそこはもっと楽しめたかも。その分作中に出てくる本や作家さんの名前で楽しんだ自覚はあるからいいけれど。

そういえば、直木賞を受賞した作品を読んだことはないはず…と思って確認してみたら普通にあった。『火垂るの墓』『容疑者Xの献身』『風に舞いあがるビニールシート』あたり。『鍵のない夢を見る』は先日買ったからそろそろ読む。意外と読んでいる。


残像に口紅を』(筒井康隆
世界中から音(ざっくり50音だと思ってもらっていい)が1つずつ消えていく中で、どこまで言葉で表現できるかを試す。言葉で言い表せなくなった人・物は消えていく。メタ的な視点も多々出てくる。
こういうものを読むと、やっぱり文章でしか味わえない何かがあると思わされる。めちゃくちゃ面白かった。なんとなく安部公房と似たものを感じた(気のせいかも)。こういった、頭の中でだけ成立するような作品が好きなのかもしれない。実家にある筒井康隆の本をもっと読んでおくべきだった。『時をかける少女』以外で。あれも今読むと面白いのかもしれないけれど。


『きりぎりす』(太宰治
これはメモ程度。「人が変わった」という表現は悪い方向に振れている気がしてあまり使わない。でも、その表現がしっくりくる知人がいて、その人にはそうなった原因が明確に存在していた。物理的というか、なんというか、分かりやすい原因。何はともあれ、自分が当該事例を除いて他人にそう形容できるほどの変化を感じたことはこれまでになく。だからこの作品の、自分の感覚を絶対的に信じている部分についてはともかく、他人に対してそう断言できる感覚がよくわからなくて。ただ、「人が変わった」と言い切れるくらい相手のことを知っていないといけないのが夫婦なのかもと思ったり。